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Destined to fail

昨晩遅くに自宅に戻りました。

無事に終えてこうして帰ってこれたのも
トレーダーさん方、友だち、両親、
DMで励ましてくれた人たちのおかげ。
すべての人たちに感謝です。

イタリア編を書き終えて、終えてっても
コロナと服5着についてだけですが笑、
またハプニング&本題の二部構成で
イギリスを振り返ります。

まずイギリスに着いたすぐ次の日に起こった、
起こしてしまった僕のどうしようもないミス。
その話をしたいと思います。

こんなアホがいるのかクスクス、と
笑ってもらえたら本望です。

その日訪れたのは地方の小さな町。
ディーラーでもコレクターでもない、
あるデザイナーさんのスタジオ。

古くは80年代から自身のブランドを立ち上げ、
今も現役で仕事をしてるベテランデザイナー。
もちろん古着の売買が生業ではなく、
私物やサンプルなど今まで買ってきたものを
処分したいというそんな方、タイミングでした。

彼は僕がずっと興味を持って追ってきた
80-90年代のイギリスを地で生きてきた人で、
古着の仕事をしていたらまず出会う機会のない
カッコいいイギリスのジェントルマン。

リアム・ギャラガーがディレクションしている
Pretty Greenていうブランドがあるんですが、
ゴーストデザイナーはこの人です。でした、かな。
(Pretty Greenも色々あったけど買わなかった笑)

その日僕がスタジオにお邪魔すると、
「ヘーイ!」と満面の笑みで迎えてくれ、
好きにやってくれよと。

自分が服を見ている間、彼はPCと向かい合ったり
仕事の連絡をしたり、クライアントと会議したり。

その合間合間にこっちの様子を覗きにきて、
僕が手に持ってる服について
「懐かしいなあ、昔これ着てクラブ行ってたんだ、
(試着して)ほらトーキングヘッズみたいだろ?」とか、
「これ××のファーストシーズンのやつだ、
当時何本か買って速攻パクったよ!」とか、
「これは昔一緒にブランド立ち上げた友達が
俺に作ってくれたものでさ、これを着て
Haciendaのステージでショーをしたんだ」とか。
どんなネット情報よりリアルで力強いエピソードが
服ごとに出てくる出てくる。

こっちからも彼に聞きたいことが色々あって。

このデザイナーについてどう思いますか?とか、
イギリスのデザインがどの国より優れている点、
誇れるものって何だと思いますか?とか。
ごく私的な質問をメモして持ってったんですが、
それにも一つ一つ丁寧に答えてくれて。

「××か、彼とは昔飲みに行ったよ!xxともね。
たくさん騒いでさ、今じゃ超ビッグになって
連絡も取ってないけどね、でも業界内じゃ
めちゃくちゃnotoriousだよ笑」
「イギリスの服の良いところか、難しいな、
まあ雑多で趣味が悪いね笑、特に何かに
優れているとかは僕は思わないな」とか。

飾りもせず卑下もしない、等身大のストーリー。
感心してる間もなく、早口で訛りも混じった
彼の英語をできるだけ拾おうと必死でした。
でも拾えたのはひいき目で半分くらいかな・・。

その浮かれた気分が予想外の事態に発展するとは
その時は思いもよらなかった。
こんな貴重な体験なかなかできないし、
舞い上がって気が大きくなってたのは確かだし、
とにかく冷静じゃなかったんだろうなと。

そこでは彼が立ち上げたブランドのサンプルや
過去のアイテム、多少の昔のデザイナーズと
その他すべてlate 80sからcirca 2000までのもの、
計150点とか?を譲ってもらうことに。

で、オールキャッシュで全額支払って、
ほっくほくでロンドンに帰ったわけです。
(この日は確かストライキで電車が全運休して、
急きょ高速バスに切り替えて帰った気が)

で次の朝、パトロール用のお金を整理してて、
あれなんか意外と少ない?そんな使ったっけ?
残り10日以上でこんだけ…て足りなくないか!?

そんな思案をしてた時に突然あっ…と、
昨日の支払いのシーンが頭に浮かんで、
額を間違えて渡していたことにそこで初めて
気がついたのでした。

その額およそ50万円笑。
払った総額じゃなく、間違えた分だけでです。
どうやったらそんなことになるんだ・・って
思いますよね。僕もわかりません。
舞い上がってたとしか言いようがない。

たかがお金とはいえ、大事な仕入れ資金が
序盤でムダに激減した状態になる、という
大きな誤算に、自分でも思った以上に動揺。
なんでこんなミスするんだって、自分自身を
根っこから疑ってしまいますます落胆。

パトロールするに当たって頭の中に入れてた
欲しいものやルート選択、そんなメモリーが
一瞬にしてすっ飛びました。

さっき話したデザイナーさんとは、
実は直で連絡は取っていなくて、
別の人(もちろん関係者、彼の私物も買いました、
その内容も面白いので特集組みます)に
やりとりの仲介をしてもらってたんですが。

昨日のこと思い出してすぐその人に連絡。

「昨日間違って50万多く払ってしまった…
申し訳ないけど彼に伝えてもらえないかな、
後でまた受け取りに行くから」と伝えると
「やべーな、オッケー言っとく」と短いレス。

週末ひさひざ家族と会うんだと言ってたので
たぶん忙しかったんだと思う。

デザイナーさん本人の確認が欲しかったけど
何度も連絡したら疑ってるみたいで迷惑なので、
心を落ち着かせてただただ待機。

一応パトロールには出かけるも完全に上の空。
服見てるけど何も見えてない。
本当なら楽しいはずなのにそこに心がない。

もう伝えてくれただろうか・・
間違いに気づいただろうか・・
もうそんなことで頭いっぱい。

海外でこんなミスしでかしたら、
まずお金は戻ってこない。そういう認識。
でも払った相手は自分が心からすごいと感じた、
同時に信頼を置いた人。

この葛藤、この矛盾。
信頼する気持ちと、それを邪魔する海外の現実。
まさかそんなことないだろう…って気持ちが9割、
でももしかしたら…って気持ちが1割。

確認したってよ、その一言でもいいのに
そういう連絡は当然ない。そりゃそうだ。
向こうはただ金返すだけって感じなんだから。
でもこっちは気が気でない。

たまらずその夜にもう一度「話してくれた?」と。
「もし忙しいなら自分が直で連絡するよ、
間に挟んでしまってごめん」とDM。うざっ笑。

するとしばらくして「うんyellしといた、
まだ数えてないから知らないって。
また来なよ、何か探しとくから!」とのレス。
これでだいぶ気持ちが楽に。ありがとう泣。

ただもちろん向こうの都合もあって
すぐ現場に戻るわけにもいかず、
結局取りに行く日が一週間後に。

その日までの一週間、ずっとそのことが
頭に引っかかってて、仕入れの邪魔に。
気づいた日ほどではなかったけど、
やっぱり100%楽しめてはいなかったし、
後で振り返ったら何で買ったん?てなモノも
結構買ってた。集中できてなかったんですね。

自分のミスで自らの首を絞めまくって、
もったいない時間の使い方をしてしまった。

そして取りに行く当日。

今回の滞在で一番緊張した日かも。
生憎天気も良くなくて、不安な気持ちに
まったく味方をしてくれない。

今回イギリスではストライキ続きで、
公共交通機関の時間は乱れまくり。
初日もそのせいで少し遅れてしまったので、
「今日は間に合いそう」とだけ一応連絡。
レスなし。
駅に着き、「着いたので向かうよ」と連絡。
レスなし。

不安を紛らわすためにした連絡なのに、
返事がないことでより不安を助長するという。
余計なことすんな。

駅からスタジオまでたった徒歩5分。
その距離があまりにも遠く、重たい。
「え、多く払ったって?もらってないけど?」
みたいな最悪の想像をしてしまい足がすくむ。
そんなことあり得ないはずなのに。

お金が戻ってくるかどうかはそりゃ怖かった。
けどそれ以上に、人を信頼した自分の直感、
その判断が間違ってたら…ってことの方が、
自分の中ではずっと怖かったんだと思う。
今まで信じて頼って生きてきた自分の拠り所が
土台から壊れてしまうかもしれないっていう。

それ相手を信頼してないよねと言われそうですが、
僕も100%信頼しきれてない気持ちには最初から
気づいてたので、何一つ悪くない人に対する猜疑心、
その自分の器の小ささがイヤで仕方なくて、
一週間それにずっと苦しめられてました。

ビルに入って、中にある彼のスタジオに。
恐怖心マックス。震えてたと思う。
キィィ・・と扉を開けて彼のところに。

「ヘーイおかえり!」

「なかなかのストーリーだなあ!いつ気づいた?
ウワーって顔面蒼白になっただろ笑?」

「お金はあれから触ってない、そのままあるよホラ」

「やっと(お金が)戻ってきたね笑、良かったなあ!
まあせっかく来たんだしまた見てきなよ!」

ずっとニッコニコ。

こっちの心は全部お見通しで、言ってはないけど
そりゃ怖いよなって、彼は分かってた。
でその出来事を手玉にとって事態を楽しんでた。

その時も彼のクライアントが来てたのに、
金取りにきたアホにもちゃんと対応してくれて、
ぜんぶ笑い飛ばしてくれた。

この出来事を通して、どうしようもないほど
小さい自分やバカさ加減に改めて痛いほど
気づかされたし、でもそれと同時に、
そんな自分が足を踏み外さないための
まるで命綱みたいな人たちが周りにいる、
そんな稀有な人たちに自分は恵まれてる、
そんなことも改めて感じました。

そんな話でした。

まあこの後イタリアでコロナかかったし笑、
次の仕入れでもまた何かやらかすんだどうせ。
もういやだこんな性格。

服を通して伝えたい理想のイメージ、
そしてこんな素の自分のイメージ、
その二つがあまりにも乖離しすぎてて、
こんなはずじゃないんだ…って気持ちです。
もっとカッコよくスマートにお店やりたい。
それが僕の将来の夢。

写真は計3日間掘り続けた現場です。
予期せぬ出来事からすごい思い出が生まれた
この部屋も、もう退去するそう。寂しいな。
手前が僕の選んだ服。届いてから再会が楽しみ。

笑ってもらえました? 服はまた次回。
長々とすみません、ではまた。